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旭川家庭裁判所 昭和41年(少)1051号 決定

少年 T・J子(昭二二・一一・一九生)

主文

少年を旭川保護観察所の保護観察に付する

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一、昭和四一年五月○○日午後四時四〇分頃、旭川市○○○×丁目○号○○館一階婦人便所において○岡○代所有にかかるカメラ一台(時価一三、七〇〇円相当)を窃取し、

第二、同月○日午後二時一五分頃、旭川市△△△丁目○××号○○テパート一階便所において○口○美外一名の所有にかかる現金五〇五円および財布(時価二〇〇円相当)を窃取し

たものである。

(適条)

各刑法第二三五条

少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項

(要保護性)

一、少年は知能低格(限界域)であり、考えが浅く、耐え性がなく即行的で、思いつくと善悪の見境いも後先きのことをも考えずに行動に走る傾向がある。そのほか、性格特徴としては呑気、楽天的、派手好き見栄つぱり、外向性、ふしだら、無計画等の諸点を指摘することができる。

二、このような少年の性格上の問題点は中学在学中からすでに指摘されていたが、卒業後勤めに出てかなりの自由が利くようになってからは一層激しく現われるようになり、そのため、バス車掌、映画館チケット売り子等の職も長続きせず、次第に遊び半分の勤めとなって、夜遊び、ダンスホール通い、家出のすえ、ダンスホールで知り合った○藤○志(現在は絶縁)と同棲し、妊娠するにいたった。

三、本件非行はこのような少年の性格、行状を如実に反映するもので、ふしだらな生活態度から金員に困り、生活費、遊興費あるいは妊娠中絶の諸経費欲しさに敢行されたものである。

手口はいずれもデパー卜の便所を犯行場所とするものであり、後記の保護処分には付さなかった余罪等をもある程度考慮に入れれば、その窃盗非行はかなり習癖化しているものというべきである。とくに、判示第二の非行は前件非行(四〇年一〇月、当時の勤務先であった○○電気軌道KKの体憩室においてあったハンドバッグから現金六千円を抜き取る等の窃盗事犯)の審判日(不処分)の翌々日に犯されたものであり、その無反省な態度や罪悪感の希薄さには驚くべきものがあり、厳戒の必要がある。

四、家庭の指導力も夫婦共稼ぎて十分でないうえ、父親はこうるさいばかりで、少年に対する影響力、非行抑止力に乏しく、母親も少年の非行、妊娠等を嘆き悲しむ反面、少年に甘くかばい立てをする傾向がある。

総じて、両親ともこれまでは少年のルーズな生活態度や度重なる非行に閉口し、これをもてあましていたきらいがある。

五、ところで、少年は本件非行後、妊娠中絶をして前記○藤と別れてからは、自宅に落ちつき、店員としての勤務状態も比較的真面目なもののようであるが、これがいつまで続くかは必ずしも予断を許さないし、上記の非行体験やその無思慮かつ即行的な性格から窃盗事犯を再びくり返すおそれも決して少なくない。

そこで、以上の諸点を総合して、少年を保護観察に付することとし、主文のとおり決定した。

(一部非行なし)

なお、昭和四一年(少)第一〇九一号窃盗保護事件については、判示第一の事実のほか、昭和四〇年四月上旬頃と末頃の二回にわたり、前記○○館および○○デパート婦人便所において、被害者不明の現金二〇三円並びに現金四、〇〇〇円およびハンドバック一個をそれぞれ窃取した旨の送致事実があるが、これらの事実については少年の自白調書があるのみで、他に補強証拠はまったくなく、しかもその自白調書(第二回)によれば、○○デパートで現金四、〇〇〇円在中のハンドバックを盗ったのは昭和四〇年一二月初め頃とのことであり、送致事実とは日時において約半年の食い違いをみせている。

そして、当審判廷における少年の供述によれば、これらの非行は逮捕中警察官に余罪を追求された際記憶を辿って自供したものであり、犯行日時の記憶は一年前のことでもあるので必ずしも定かなものとは思われない。とくに少年にはこの時期において同種手口の非行が多く、未だ明らかにされていない余罪もなお相当数潜在するおそれもあるのでこれらの事実との明確な識別、特定が必要であり、(少年の第一回自白調書参照)少年の自白のみで他に補強証拠もないのに犯行日時を特定し、かつ自白どおりの犯罪事実を認定することは、著しく危険なことといわなければならない。

そこで、保護処分の罪となるべき事実としては判示第一、第二の事実を掲げるにとどめ、残余の送致事実についてはこれを非行なしとして保護処分に付さないこととする。

(裁判官 早川義郎)

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